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大企業は本当に安定しているのか?

1.大企業は本当に安定しているのか?

日本的雇用システムの労働者にとっての利点には、安定した収入と地位の保証あるいは充実した福利厚生とあるが、果たして現代においてもそうであるのだろうか。経団連の中西会長とトヨタ自動車の豊田章男社長による「終身雇用の崩壊」は世間に衝撃をもたらしている。事実上リストラを肯定しているのである。実際に日本の企業では2018年に東芝、2019年にはNECと富士通も大規模な人員整理を行っている。また、年功賃金制度も崩壊しつつあり、自らキャリアアップをしていかなければ安定した収入を得ることができなくなっている。2018年には多くの企業が副業解禁をしており、一つの会社に忠誠を誓うというような働き方だけではなくなっている。このように、日本の大企業でも安定した収入と地位の保証は難しくなってきている。

 

2.産業構造・職業構造が変化したことによる影響

産業構造・職業構造の変化は働くことに様々な影響を及ぼすことになる。社会が進展するにつれて、工業化、脱工業化を経てサービス業が増えていくため、ホワイトカラー職が増大していくわけだが、そのような職ではより高度な知識やスキルを必要とする。また仕事が単純なものではなくより複雑化したものとなり、際限がなくなるため労働者の精神的負担が増大するといえる。特に、営業、教員、医療、介護といった感情を使って人に接する仕事はストレスをためやすいといわれている。このように、就業構造の変化は働く人の負担の在り方に変化を及ぼすことになる。また、工場労働は肉体労働であり安全や重労働が労働条件の争点となっていたが、ホワイトカラー職が増大していくと人間関係や仕事の際限があるかどうかが労働条件の争点となってくる。近年では、パワーハラスメントが横行しており、残業時間が基準を大幅に超えて働かせるブラック企業が問題となっている。労働者への負担が変化すると、労働条件の争点も変わってくるのである。そして最後に、労働者の評価の仕方が変わってくる。工場労働では、物を何台作ったか、何台の車に部品を取り付けたかなど目に見える形で成果が見えるものであったが、ホワイトカラー労働では、生産効率の向上や労務管理や人事などの成果が目に見えにくい業務が多く評価か難しくなる。また、業務を家でこなすことができるようになったのも評価が難しくなる要因となる。このように、労働者の働きぶりの評価の在り方も変化する。

 

3.日本の企業コミュニティー

 企業の経営目標を達成するためには、組織と管理の仕組みが重要となってくる。そのうち「ヒト」に関する管理の在り方が雇用システムであり、産業社会学では日本の企業を「コミュニティー」としてとらえる視点を重視してきた。企業コミュニティーとして機能するには同属意識が重要であり、本来会社は利益が相反する労使によって成り立っているのでコミュニティーというのは矛盾している。しかし、日本型雇用慣行によってそれを可能としている。

 企業コミュニティーでは、会社に属する人をまるで家族のようにとらえているというのが大きい利点である。欧米では労使間にはっきりとした境界線があるが、それがないことによって、経営者から現場の労働者にまで経営目標がブレイクダウンされている。このように、労使間にあまり対立がなく労使一体になっているので目標を共有しやすいのである。そして、経営者は労働者の雇用を長期的に保障し、かつ、勤続年数を重ねるごとに報酬が増えていくため、労働者は会社のために働こうというモチベーションにつながり、質の高い仕事を提供する。このような点が日本の企業コミュニティーの強みである。

 しかし、このような企業コミュニティーは近年問題になっている長時間労働問題につながっていると考える。労使間の境目がはっきりしている欧米では、使用者は経営管理に立ち回り、労働者は与えられた職務をこなすことに徹する。つまり、職務の範囲が明確に決まっているということである。逆に、労使間の境目がないということは職務の範囲もあいまいで一人一人が自らの仕事を考えて進めていくこととなる。そうなると仕事はとても膨大になり、時間外労働につながると考える。企業コミュニティーのまるで労働者を家族のように捉える考え方は、いい意味でも悪い意味でも労使間の境目をなくしている。

 

4.求人倍率の推移

 求人倍率は、働き手が欲しい数に働き口が欲しい人を割った数字であり、数字が高ければ労働者にとっては仕事が探しやすく、雇用者は人手不足の状態である。図1の大卒求人倍率をみてみると、最も高いのが1991年、最も低いのが2000年であることがわかる。次に民間企業就職希望者数と求人総数を見てみると、民間希望就職者数は大学の卒業生であるため1990年代ごろから一定に伸び続けている。変化があるのは求人総数で1991年、2000年、2009年、2019年が大きな山となっている。求人総数は、経済状況に影響されており、それぞれバブル崩壊、アメリカのITバブルの崩壊、リーマンショック、コロナショックというのが影響しているのだろう。1980年代までは、求人数も多く大卒者も少ないため求人倍率は高い。それ以降の時代は大卒者もある程度の人数がおり求人倍率はある程度まで下がった状態を維持し、景気の変動によって変わる求人総数と概ね求人倍率が連動していることが読み取れる。

 しかし、図2の企業規模別の求人倍率をみてみると、1000人未満の規模の企業の求人倍率は全体の求人倍率と連動しているが、1000人以上の規模の企業の求人倍率はあまり連動していない。これは大企業のほうが新卒一括採用の制度をとっていることが多く、景気変動によらず長期的な視点で一定数採用を継続し続けているということが関係しているのではないかと思う。一方、中小企業では新卒一括採用をしていないところが多く、景気に連動して求人数を変えていると思われる。

図1.求人総数および民間企業就職希望者数・求人倍率の推移

(出典:リクルートワークス研究所)

図2.従業員規模別 求人倍率の推移

(出典:リクルートワークス研究所)

 

 

5.産業社会学と法政策(働き方改革)

働き方改革関連法案は2018年6月に成立し、2019年4月より順次施行されている。働き改革の論点は、「長時間労働の是正」「正社員と非正規社員の処遇格差是正」「女性・若者・高齢者の活躍促進」である。しかし、これらの問題は、法律などでは簡単に解決することのできない社会問題であり、根深いものがある。そのため、表面上の問題を見るだけではなく、背景にも着目しなければならない。まず、長時間労働に関しては、そもそも時間外労働は所定外の労働義務であるのになぜ労働者は自発的に時間外労働に従事するのか。そして、正社員と非正規社員の処遇格差問題に関しては、欧米では同じ仕事であれば賃金は同じなのに、日本では格差が生じるのか。最後に、欧米の女性管理職比率は30~40%であるのに対して、なぜ日本ではいまだ10%代で、実現が難しいのか。

 まず日本の労働問題について考えるために、「日本の雇用ルール」について理解しなければならない。ルールというのは労使間の合意の軌跡であり、具体的な仕事の配分や評価の仕方である。そのルールを記号としてとらえることによって、組織や社会の実態をつかむことができる。職場ルールといっても企業ごとに千差万別ではあるが、おおきく日本型と欧米型に分けられる。日本型の職場ルールは端的に人に対して支払われる賃金、動態的な課業設定と表すことができる。各労働者の業務は達成目標から演繹的・自発的に展開されており賃金、課業ともに毎年変化する。そのためPDCAサイクルは会社全体で回していく必要があり、一般労働者もPDCAを回している。このような、システムのため課業の中核概念にはサンクションという日常的なモニタリング、賃金の中核概念には成果を出した人に対してモチベーションを上げるためのインセンティブがある。使用者は長期雇用を保障し、人材育成をする引き換えに、労働者は質の高い仕事を提供するという関係が成り立っている。対して、欧米型の職場ルールは端的に職務に対して支払われる賃金、静態的な課業設定と表すことができる。使用者と労働者の間には明確な境界線があり、PDCAサイクルは管理職の中でしか回されない。労使関係の基本は、経営者が好き勝手に仕事を労働者に押し付けないようにする職務規制であり、職務内容と賃金は事前に契約によって決まっている。使用者が、最低限の仕事しか与えないというのを引き換えに、労働者は、職務放棄をせず紛争を起こさないという職場秩序を維持するという関係が成り立っている。このように、欧米と日本では働き方に大きな違いがあるのである。それでは、なぜ法律の制定や改正をしても日本の労働問題はなかなか解決されることがないのか。

 確かに、法律の制定や改正によって企業の行動を一定の方向に誘導することはできるが、それ以上に組織規範というのが労働者の行動を左右している。日本では、動態的に課業が設定されるためPDCAサイクルを回すのが徹底されている。労働契約というのは、働かせるのを目的としており、仕事の質はインテンシブやサンクションによって確保されている。このように労働義務ではない目標を達成させる業績管理のガバナンスによって仕事の質に関する私的秩序が形成され、「働く=役割の完遂」という組織規範が形成される。

 それでは、働き改革の論点にもなっている長時間労働の是正はなぜ残業時間上限を決めても解決されないのか。それは本質的な原因を見つけ出し、解決することができていないからである。これまでに述べたように、日本では労働者にできるだけ仕事をさせるための管理体制が成り立っており、契約意識は希薄である。それに加えて、業績管理、賃金管理に関してPDCAによって管理されているのに対して、時間管理に関してはPDしか行われていない。課業配分に関して法律で誘導するのは難しいため、業務管理に対峙する時間管理を事業計画の中に組み込むのが得策である。ただこれには企業が業務管理の部分的解体に踏み切るだけの動機付けが必要である。

 次に、正規雇用と非正規雇用の処遇格差問題であるが、ここで重要となってくるのが就業の実態把握である。行政の考え方としては職務的アプローチであり、中核的業務に携わっているか、配置の転換、異動があるかが実態把握の基準となっている。

 そして最後に、女性の活躍が低迷している問題に対してはダイバシティ―が重要である。単一的な働き方の中で、男性か女性かというように分けるためこのような問題が生じる。様々な働き方を設けて男性、女性に限らずさまざまな人が各々に見合った働き方を選択できるようにすることが必要である。

 

 

6.統計的差別とは

企業が管理職などの重要なポストを育成する際、多くの時間をかけて実務経験を積ませていく必要がある。教育した社員が途中でやめてしまうと、その人にかけたコストはすべて無駄になってしまい企業は損することになる。その際、統計的に女性のほうが途中で退職する人の割合が多いというデーターを理由に男性を優先的に重要な仕事や管理職に配置するというのが統計的差別である。長く働き続けてくれる女性の意欲や能力を活かせず、無駄にしてしまうという損失もあるのだが、多くの企業は、教育した女性が途中で辞めてしまうために生じる損失のほうが大きいと判断して、女性には簡単で補助的な仕事のみしてもらう。このため、女性は男性と同じように収入アップしていくことはない。この理論をもとに男女間賃金格差を縮小する方法は三つある。まず、女性が出産後も働き続けることができるような制度を企業がつくることである。出産後も働き続ける女性が増えれば、企業も安心して将来、責任ある重要な仕事を任せられるように女性を育成できる。次に、働き続けようと思える魅力的な仕事を経験させることである。このように女性が出産後も働き続けるという事実が積み重なれば男女間格差も縮小するだろう。そして最後に、性別以外で長く働き続けてくれる社員かどうかを見分ける方法を企業がつくることである。男女で判断するので大きな男女間賃金格差が生じている。

 

7.経済学視点で見る仕事と生活の両立

男性と女性の間で伝統的な役割分担が生じてしまう理由を、経済学の機会費用の考え方から説明することができる。男女の仕事と家事の1時間当たりの金銭的価値をまず考える。その際に、家事をするために捨てなければならなかった賃金収入が機会費用である。2人で暮らすとき毎日2000円分の家事をしなければならないとしよう。家事の賃金は男性が時給1000円、女性が時給2000円(家事能力が優れているため)と仮定する。男性の賃金が高い社会を前提として、男性の賃金を時給2000円、女性が1000円とすると、家事を1時間するための機会費用は男性のほうが高くなり、女性が家事をするほうが合理的である。次に、男女同じ賃金の社会を前提として、男女ともに時給2000円の賃金とすると、それでなお男性のほうが機会費用は高く、女性が家事をしたほうが有利である。この理論で考えると、女性の賃金が男性の2倍の4000円を超えなければ男性が家事をして合理的にはならないのである。職場における男女平等が実現するだけでなく、男性も家事能力を身につけて、家庭における男女平等が実現して初めて、男女参画社会が実現する。この考え方が見落としているのは、1つ目に女性のほうが生得的に家事を効率的にこなせるというわけではないということ。2つ目に、家事も最初のうちは誰でも楽しくすることができるが毎日続くと苦痛になるということ。そして、3つ目に相手に依存してしまうとことの危うさで、女性は特に男性の稼ぎに依存してしまうとことのリスクは大きい。

 

8.高年齢者雇用安定法と後払い賃金制度

1986年に高齢者雇用安定法は制定され、これまでの経緯を見ると、厚生年金の支給開始年齢の引き上げに対応して改正されてきている。この法律では。企業が定年を設ける場合、定年年齢を60歳未満にしてはならないこと、そして、従業員に65歳までの雇用機会を確保すること、雇用確保措置を義務づけている。この雇用確保措置には、65歳までの定年引上げ、65歳までの継続雇用制度の導入、定年の廃止の3つがあり、企業はそのいずれかを講じなければならない。2021年4月の改正では、70歳までの就業確保措置が企業の努力義務となっている。そもそも定年制度は、後払い賃金の理論を前提としており、勤続期間の前半では貢献度>賃金、勤続期間の後半では貢献度<賃金となっており、従業員をまじめに定年まで定着させることを促している。まず定年廃止にする場合いつまで働いてもいいし、辞めてもいいということになるので従業員がまじめに働いて定着するという企業の利益はなくなる。そして、定年引上げにした場合、企業の利益は維持することができるが、勤続期間が延びるので60歳までにもらえる賃金が少なくなり従業員のモチベーションが下がる。そして、定年後の雇用継続制度の場合、定年後は成果に伴って賃金を支払うことになるので企業にとっては利益であるが、従業員にとっては定年後に賃金が下がることになるのでモチベーションは低下する。(T・Y)