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人事制度のグローバル標準化-パナソニック社の事例紹介-

近年では、多くの日本企業が海外に進出し、事業を展開している。

このような状況下で国や地域を超えた人材の最適な配置と登用、そしてそれを推進するためのグローバルな制度的基盤を整える必要がある。従来から人事改革の機運が高まるたびにアメリカの職務基準の人事制度を導入しようとする動きがあった。

1980年代には、職能資格制度の問題点と見直しが指摘され、そこから1990年から2000年には成果主義によって処遇や働き方が変化した。直近ではグローバル経営の進展に伴い人事制度の標準化の必要性が高まっている。人事制度のグローバル標準化の流れをパナソニック社の例に見ていく。

 

グローバル展開する企業では世界の各地域で地域統括会社と現地子会社を擁していることが多い。

パナソニック社の場合、海外拠点は339社、従業員は16万9千名(2013年現在)である。そのため、労働市場、労働法、労働慣行等は地域国ごとの多様性を持ち、各製品事業組織が独自に海外拠点を展開しているため独自の人事制度が形成されている。

 

従来は、人事管理が本社と現地子会社で異なっているため、本社から現地子会社(主要ポスト)への海外派遣社員が中心で、現地子会社の従業員の昇進機会が限られモチベーションが失われてしまうなどの問題を抱えていた。

近年ではグローバル経営の重要性が高まり、本社と現地子会社および現地子会社間での人材異動を通じた最適な人材配置・登用を模索し始めたのだが、人事制度が各地域国で違うことによって問題が生じている。パナソニック社では、グローバルマトリックス組織1と重ねあわされた人事組織体制であり、各人事部の密接な協働が必要であるのだが、ここで日本的な人事制度である職能資格体系、年功的な昇給・昇格管理が制約となった。職務や世間相場水準を設計原理とする傾きの強い海外の人事制度と齟齬が生じるのだ。このように、人事制度グローバル標準化の背景には多面的な制約を克服しながら前進する困難なプロセスが存在する。

 

パナソニック社における人事制度グローバル標準化の本格的な展開に至る経緯をたどると、2005年の「グローバルトップ500ポスト」整備に始まり、客観的・定量的な基準を用いたポスト評価が整備され、2010年には幹部開発システムのグローバル統合がされた。2014年には本社人事制度の抜本的な改革が行われ、伝統的な職能資格体系から仕事・役割等級にシフトされ、グローバル標準化の基軸を形成した。2017年にはグローバルな人材活用のための制度整備を専門に行う「HRプラットフォーム推進室」が創設され、人事制度グローバル標準化が本格的に展開されることとなる。

 

次に、グローバル等級制度が適用される過程を見てみると、基軸となっている本社の仕事・役割等級制度は、従来の能力基準に基づく職能資格制度を定量的な評価手法を用いた仕事・役割等級制度に再編されたものである。しかし、典型的な米国に見られるものに移行したわけではなく、日本的特性を帯びている。まず、PDCAを回すという日本的な働き方を維持している点、次に外部労働市場の影響が限定的であるという点である。そして、このグローバル等級制度は各国・地域の状況や特性に応じた形で普及・浸透が進められてきている。

グローバル等級制度の整備と並行して、パナソニック社では評価・報酬面でのグローバル標準化も進められてきた。特に人事評価は国歴や社歴を問わずに優秀な人材を確保するうえで基幹的なサブシステムである。

同社における人事評価の標準化はパナソニック・グローバル・コンピテンシー(PGC)とパフォーマンス・マネージメント(PM)の展開という2つの側面から展開されている。PGCとは、経営理念や価値観を社員の行動基準として具体化したもので、多様な社員を統合的に管理することを目指して整備され、具体的な行動基準を幹部社員のみならずグローバル全社員対象に導入したものである。

 

次に、PMとは、事業目標を部門や、職場個々の社員にブレークダウンし,その進捗を管理・評価する仕組みである。グローバル等級の場合と同様、制度の基本的な仕組みや考え方はグローバルに統合したうえで、地域特性に応じたある程度のカスタマイズを許容している。報酬管理については、要点はシンプルで給与決定の際に依拠するサラリーサーベイ2のデータをマーサー社3のものに統一すること、そのうえで市場水準の75パーセントタイル4をターゲットした報酬管理を行うというものである。これまでは、各拠点で使用するサラリーデータに他社データやローカルデータが混在している状況にあった。しかし、給与に関しては各国の給与水準と切り離して考えるわけにはゆかない。そのため、制度面と水準面セットで標準化を考えていかなければならない。(T・Y)

 

注釈

1 マトリクス組織とは、従来の「職能」と「事業部」、または「エリア」の2つの系列を縦・横に組み合わせて網の目のようになった形態の組織である

2 世界140ヵ国で実施され、グローバルトップを含む35,000社以上/1,500万人以上のトップポジションから非管理職層まで、全役職の報酬情報を収集する報酬調査

3 組織・人事、福利厚生、年金、資産運用分野におけるサービスを提供するグローバル・コンサルティング・ファーム

4 労働市場データから該当する75%タイル(母集団を100人と想定した場合の上から25番目)の報酬額

 

参考文献

樋口純平(2019)「人事制度グローバル標準化のプロセス : パナソニック社における2010年代の動向を中心に」『評論・社会科学』129,pp.1-28